ある朝、玄関前の床にトンボがいました。
この時期に珍しい…
逃げもしないでじっとしている。
よくみると、1枚の羽根の先が傷ついて、飛べないようです。
トンボにとっては致命傷。天敵から逃げることも、餌の虫をとらえることもできない。
助けたいけれど、どうすることもできないです。
せめて水をあげたいと思い、木の葉を水でぬらしてそばにおいてみました。
しばらくして見に出ると、2~3歩前進して葉っぱにつかまっていました。
夜はまだ随分冷え込みます。
コンクリートの床は冷えるだろうと、カーネーションを植えた鉢にそっと移動させました。
日に2~3回、水でぬらした草や葉をそばにおいてやり、時々そばで過ごすことしかできなかった。
三日目の夕方、死んだなと思った。
そっと触れても、動くことはなく、目から光が消えていました。
よく頑張ったね…
翌日の朝、庭に埋めました。
これから次々と花を咲かせるスイートピーの根元がいい。
次に生まれてきたら、大空をぐんぐん飛ぶのだぞ。
思えば不思議です。
飛べない羽で、どうやって我が家の玄関までたどり着いたのか。
ヤゴからふ化する時に失敗して、羽が傷ついたのかも知れない。
でもうちのすぐ近くには、ヤゴが生息するような水辺もない。
それまでの短い生について、トンボは教えてくれなかったけれど、最後に来てくれたのがうちだった。
ちょっと嬉しかったよ。
春のトンボが確かに生きたこと、私は忘れない。