2年ぶりに母方の先祖のお墓に参ってきました。
広島県の山あいの村、山野町というところです。
実家の兄と急に思い立って出かけました。
山の斜面の集合墓地からは、村全体をほぼ見渡すことができます。
子供の頃、毎年夏休みに避暑に訪れていた懐かしい風景。
夏休みに滞在中は、いとこたちと毎日のように泳ぎ、魚とりをしたものです。
村の中央を小田川という一級河川が流れ、三角屋根の保育園や、プール付きの小学校、川沿いにいくつかの商店も並んでいて、郵便局や美容室まである。
田舎ではありましたが、子供の目にはちょっとした文化も感じるところでした。
なにしろ、自分の家は瀬戸内海の小さな入り江の何もない村で、唯一のよろず屋には漫画本すら売っていなかった…
それでも父方は海、母方は川、それぞれの自然と文化を享受することができた子供時代は、今思うとなかなかに贅沢ですね。
お墓参りの後、かつて泳いで遊んだ川に行ってみました。
道路から川を見下ろした瞬間、ふわっと川の匂いが立ち上ってきました。
「あー、山野の川の匂いじゃ」と兄
「うーん、山野の川の匂い……」私も思わず口に出る。
川の匂いに誘われ、二人とも一瞬、数十年前の子供時代にタイムスリップしたのでした。
川から歩いて1分、かつて毎年夏に滞在した母の実家のそばまで行ってみました。
懐かしい母屋、今では人手に渡り、他人の家となっています。
20数年前、祖母と伯父が相次いで亡くなり、身内に住む者もなくて手放したのですね。
子供の頃滞在した離れと、隣にあった蔵はなくなって更地になっていました。
家の周りを囲っていた土塀も、残骸といった趣で少し残っているのみ。
年月の経過を思うと同時に、古い母屋を大事に保存して住んでくださっていること、ありがたく思いました。
母は生まれ育ったこの土地を愛してやまず、特別な思いを持ち続けていました。
五感に刻まれた大切な記憶なのだと思います。
五感と言えば魚類は嗅覚が発達しているそうです。
海を回遊したサケが、生まれた川に帰ってくるのは、川の匂いをかぎ分けているからだとか。
水中のアミノ酸組成を嗅ぎ分け、その匂いの違いを道しるべとして、正確に生まれた川に戻ってくるのだそうです。
すごいですね。
私と兄が思わず「山野の川の匂い…」とつぶやいたとき、種を超えて魚になっていたのかも知れません。