「死にゃあせん」
娘が最近はまっている言葉だという。
「小さいとき、どっかで誰かが言ってた気がするんだよ」
はいはい、覚えがありますよ。
おそらく私の実家あたりで聞いたのだと思います。
「食べても死にゃあせん」
「少々失敗しても死にゃあせん」
いかにも実家の父や、先代の祖母が言いそうな言葉です。
岡山弁で「死ぬほどのことではない」の意味です。(訳すほどでもないですが)
どちらかというと乱暴ともとられる岡山弁、「死にゃあせん」ときっぱり言い切る方言の名調子も手伝って、幼い娘の記憶に刻まれたのでしょう。
そしてどちらかというと、万事にいい加減なわが実家、「死にゃあせん」とか「まあ、これでこらえてもらおう」とか自分を楽にする言葉が、生活のなかにあったように思います。
食べても死にゃあせん、嫌われても死にゃあせん、忘れても死にゃあせん、しくじっても死にゃあせん…
何ときっぱりとしたおおらかな言葉でしょう。
言葉の持つ力とともに、発した人の温かみも包含している。
いっそ私が座右の銘にしたいくらいです。
そしていつか人生の終わり、つまり「死ぬ」を迎えたときには、今までの幾万回もの、死にゃあせんかった出来事に感謝しつつ旅立ちたいものですな……