本棚にいよいよスペースがなくなってきていたので、本の整理をした。
未練なく処分できる本もあれば、再読する予定もないのに置いておきたい本がある。
日本の近代文学や、世界的な文豪の作品も残しておきたい部類。
かつて若さからなる勢いで読んだ、トルストイ、ドストエフスキー、スタンダール、モーパッサン、ヘミングウェイ、ディケンズ、サガン……
これらの大作を読んでいた私は一体どこへ行ったのやら……
今となっては、あらすじさえ思いだせない作品もある。
それでも何かしら、作品から受け取った一つ一つは、心のどこかに息づいていると思いたい。
それらは、ふかふかとした心の層となって、知らぬまに助けてくれているのでは…なんて思っている。
当時は読みながら、時代や国も違うこれら小説の登場人物の心情に、こんなにも共感を覚えるのが驚きだった。
作者と時を超えてつながる瞬間でもあったと思う。
やはりその経験を思い出させてくれるこれらの本は、本棚の片隅に置いておこう。
二年前、フランツ・カフカの「変身」を読み返したことがあった(100ページほどの短篇でサクッと読めた)
あるセールスマンが、ある朝夢から覚めると、自分の姿が巨大な毒虫になっていることに気づくというあの小説です。
再読して、こんなに面白い作品だったのか…とちょっとした衝撃だった。
心理学的にみても、家族関係、アイデンティティの問題など、もうあらゆる要素満載。
毒虫に変身してしまった主人公を前に、両親と妹の右往左往、力関係の変化から目が離せなかった。
それに時代背景や、経済優先の社会風潮など巧みに絡められ、もう見事というしかない。
ストーリー全体を通して、巨大な毒虫という象徴が表すもの、そしてその死がこちらに迫ってくる。
10代のときも、この奇想天外な設定をそれなりに面白く読んだと思うが、この年齢だからこそ味わえるものがあった。
今、もう一度パラパラとめくって、また読みたくなっている。
本の整理をしていると思わず手がとまり、今の私を誘ってくる本がある。
ふたたび機が熟したのかも知れない。
そんなこんなで思ったほど処分できなかったが、それでもしばらくは心配ないくらいのスペースができた。
安心して新しい本も買おう!
ちょっと爽快な気分です。