思い出の品

40年近く前の思い出の品

といっても、私のではなく兄のものです。

兄が学生時代に、女優の八千草薫さんから直接頂いたもの。

その当時兄は、東京の世田谷のとある魚屋さんで、アルバイトをしていました。

近くに映画監督の谷口千吉さん、八千草薫さんご夫妻のお宅があり、ある日注文いただいたお刺身を届けにいったそうです。

兄がチャイムを鳴らすと、まずお手伝いさんが出て来られ、その後ろから、八千草薫さんと愛犬、ご主人の谷口千吉さん、次々とみんな出てきて迎えてくださったのだそうです。

そして八千草さんは「あらあら、○○さん(魚屋さんの名前)ご苦労さま。ちょっと待ってね」と一度奥に入られると、デパートの包みを携えて出て来られ、「よかったら使ってくださいね」と自ら渡してくださった。

TVでみる八千草さんそのままの、ナチュラルで優しいお人柄にふれたこの日のことは、兄の忘れられない人生の1ページとなったようで、私にも何度かこの話をしてくれました。

ご夫妻のかざらないお人柄は、お刺身の配達にいった一介のアルバイト学生をも包み込むようなものだったのでしょうね。

頂いたセリーヌの靴下を、兄は今でも箱のまま大切にとっています。

今年のお正月に実家に帰省した時、40年の歳月を経た包みを初めてみせてくれました。

兄の思い出がなくとも、私は八千草さんが大好きだったので、ちょっと感激しましたね。

また兄の学生時代の、東京での瑞々しい日々が、その包みと一緒にしまわれているような気もした。

 

昨年の秋、八千草さんは天国に旅立たれました。

そのほんの少し前まで、ドラマでその少女のような佇まいにお目にかかれていたように思います。

いたずらっぽい笑みを浮かべて、軽やかに、ふっといなくなったよう……

 

 昨夏出された八千草さんの本  読むだけで穏やかになれる

 

今日は兄の誕生日、後でおめでとうを伝えます!

 

お盆の言い伝え

もうすぐお盆を迎えますね。

子供の頃、大人たちから聞かされた、お盆にタブーとされていた言い伝えを思い出しています。

お盆に殺生をしてはいけない。

お盆に海や川で泳いではいけない、なぜなら「盆仏がつく」から。

これは子供心に怖かった。

泳いでいると死者の魂に足を引っ張られて、あの世に連れていかれてしまう……

お盆の海や川は、特別に底知れぬ何か恐ろしいものを秘めているように思え、水の色まで違って見えたものです。

泳ぎに行こうとは決して思わなかった。

それなのに、父はそんな迷信めいたものをまったく意に介さない人で、お盆でも気にすることなく、自分の船を意気揚々と海へ出し、魚とり、蛸とりなどに出かけてしまうのです。

海に潜るわ、殺生はするわ、大丈夫なんだろうか……

父が無事に帰ってくるまで、子供心に心配したものでした。

同じ兄弟でも、弟である叔父は、「兄貴、お盆に海に行くとはどういうことだ」と父を戒めていた記憶があります。

 

余談ですが、父の長年の信仰心のなさは(ただ作法を知らなかっただけかもしれないが)かなりのものでした。

祖父母が亡くなった年に、何十年かぶりにお仏壇に手を合わせるということをしたのではないかと思います。

その時なんと、仏壇の前で、パチパチと手をたたき、家族を仰天させましたね( ゚Д゚)

 

母方の田舎は小田川という川の流域に広がる里山です。

毎年夏には避暑に行き、毎日のように川で泳ぎました。

いつものように、いとこたちと川で遊んでいたとき、河原で見張りをしていた伯母に突然呼ばれました。

川のある地点を指さし、「あそこに近づかないでね。昔、子供がおぼれて亡くなっているから。今ふいに思いだしたの」

伯母の表情には、地形的な危険というよりも、霊的な危険の意味合いの方がより強く出ていて、そのあたりによどむものを勝手に感じ取った私は、思わずぞくっとしました。

 

科学がいくら進歩しても、目に見えないものに揺らぐ感性は大切ではないかなと思います。

それがどう役に立つの?と聞かれてもちょっと困るけれど。

 

お盆のころ出てくるクラゲは、成仏できない魂の化身とも言われるようですね……